地球 ノ 直径

ワタシノセカイ ハ キミ ガ マワシテル

夏は、フライパンの上。

300日ぶりの夏は、相変わらず油が引かれたフライパンみたいにジュッと暑い。人間達は、さながらそこで焼かれるハンバーグ。
「海に行こう」
なんて、誰が言い出したんだっけ。
視線は真っ直ぐスマートフォンに向けているけれど、お気に入りのアーティストのTwitterを見つつも視界には少し君が入り込むように。緻密に計算された位置取りに、君は気付かないんだろうな。いいや、気付かないでいいんだけど。
「海、すっごくいいね! みんな、行くでしょ?」
視界の端で君が、あんまりにも楽しそうな顔をするから。普段は苦手な集団行動にも、「いいよ」と答えてしまったんだ。
暮れかかる太陽が、1日はもう少しで終わると言っている。バーベキューの余った具材の中から、ついでに買ったらしい花火セット。誰が一体、買ったんだか。何となく、予想は付くけれど。レンタルしたバーベキューセットを片付けて、荷物をまとめていた。海風で、体はベトベト。ああ早く帰りたい、そんな思いは胸に秘めておこう。
「ねえ、ちょっと来て」
いきなり、君に引かれる右手。狙ったように涼しい夜風が、背中を押すように吹いた。小さくて細い指、華奢な手から伝わる君の体温。心臓は、予告されていなかったイベントに早鐘を打つ。
「じゅ、ジュース買うてくる!」
咄嗟に出た言葉は、ちょうどいい選択。なんにも知らない友人達に背を向けて、2人砂浜を歩き出した。繋がれた手が離されることは無くて、おかげで寿命が縮みそう。
「ど、どうしたん急に?」
「…… いや、ジュース買いに行こうと思って。同じこと思ってて、ちょうど良かった」
どうやら、咄嗟に出た答えもなにもあれで正解だったらしい。なんだかデートみたいだなってたかが数分だけ、しかもジュースを買いに行くだけなのに。浮ついた考え、君はいったい何を思ってるの。
「何、飲む? ここまで着いてきてもらったし、私の奢りー」
「え、ええって。奢られるほどのことちゃうし」
「遠慮しないでいいのに。炭酸平気だよね?」
「あ、ありがと」
「どーいたしまして」
がこんと音を立てて、落ちてきた缶ジュース。手渡されたそれのプルタブを開ければ、プシュっと空気が零れる。 口の中でぱちぱち弾ける炭酸と甘ったるさ。この中には、かなりの量の砂糖が入ってるんだっけ。
「…… 好き」
突然耳に入ってきた2文字に驚いて、飲み込めなかったジュースが顎を伝う。「何が?」と聞かなくたって、どうせ飲み物の話なこと分かってるのに。拭おうと出した手より先に、柔らかな衝突に目を見張る。
唇を発生源に広がる熱は、真っ赤な夕日のせい。フライパンの上のハンバーグは、真っ黒に焦げてしまった。
「さて、みんなの分買ったし戻ろ? …… これは、内緒だから」
「なんなん、いきなり……」
「分かってよ、それぐらい」
半分ぐらい減ってしまった、ジュースを一気に飲み干す。それなのに、また喉が乾いてくるのはどうして。まるで、雨が降っても干からびてる砂漠みたい。
「…… この後、空いてるん?」
「うん。1日、大丈夫」
楽しそうに、君の唇が弧を描いた。ふと脳内にリピートされた、誰かの忠告。いいよ、分かってる。分かってるから、いいんだ。 何食わぬ顔で大量の砂糖を含んだジュースみたいに、君に騙されたい。

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「クチウツシ」を自己解釈しました(エセ関西弁ごめんなさい)。イメージは、奥手系男子としたたか肉食系女子のワンナイト・ラブです。
「クチウツシ」、エモエモのエモですよね。重岡大毅の「もう分かるよ」、もう重岡大毅にはバレているの(何が)……
終盤の重岡大毅の「カラカラな唇、ジュースをクチウツシ」で、胸が苦しくなりますね。控えていた爆弾の爆発みたいな感じで、リア恋すぎてしんどい。私が、コンサートDVDを撮るカメラならここは重岡大毅寄りで横顔から正面にと舐めるようなカメラワークで撮ります。死ぬまでには、やってね!!

2019/01/29
たかはし。